無憂宮
2004 ミロ誕


 ミロが持ってきた土産を開けるたびに、歓声が上がった。
 「すごいや、クリスマスみたいだね」
 氷河が嬉々として言うように、ミロは一足早いサンタクロースを気取っていたのかもしれなかった。
 目にしただけでごくりと唾を飲み込んでしまうようなご馳走の数々だけでなく、部屋を飾り立て場を盛り上げる以外何の使い途もなさそうなモールやクラッカーまで、およそパーティーに必要と思われるありとあらゆる小物が、ぎっしりと詰め込まれていたのだ。
 とりあえず、カミュが帰ってくるまで、飢え死にだけはしなくてすみそうだ。
 アイザックは複雑な思いに囚われながら、一つ一つの包みの中身をあらためていた。
 ミロの持ってくる差し入れはいつも、名の通った店の物なのだろう。
 田舎育ちで贅沢と無縁の彼らにも、その繊細な彩りの料理や凝った包装などから、そのくらいの察しはついた。
 「ミロは食いしん坊なんだね」
 かつて、アイザックはそんなミロへの感謝を、こんな言葉で表現したことがある。
 自分でもひねくれた謝辞だと思うが、ミロは気にした風もなく笑ってくれた。
 「せめて食通って言ってほしいね」
 そして、台所に立つカミュの後ろ姿を、なにやら眩しいものでも見るように目を細めてみつめると、こう呟いた。
 「でも、いろんな店の料理食べたけど、やっぱり一番はあいつの手料理だな」
 いつになく熱のこもった真摯なミロの台詞に、アイザックはきょとんと瞳を瞬かせた。
 そんなアイザックの頭を、ミロはにやりと笑うと軽くこづいた。
 「だから、おまえも早く聖闘士になって、俺の料理人を返してくれよな」
 何て食い意地の張った自己中心的な人だろうと、当時のアイザックは呆れ果てたのだが、今ならその言葉に隠された意味が、なんとなくわかるような気がするのだ。
 何故か、おもしろくはないのだけれど。
 胸の奥がもやもやとするような回想にふけっていたアイザックは、氷河のはしゃいだ声に現実に引き戻された。
 「ねえ、ケーキもあるよ。今、食べようよ」
 氷河の前には、真っ赤な苺と生クリームでデコレーションされたケーキがあった。
 期待に満ちた目でみつめてくる氷河に「そうだな」と笑いかけると、アイザックは苺を一つつまんで口に入れた。
 紅い果実は、妙に甘酸っぱい味がした。

CONTENTS