2005 カミュ誕
欠伸をかみ殺しながら、僕は時計の文字盤とにらめっこを続けていた。
あと、少し。
あと少しで、日付が替わる。
明日が来るという、毎日毎日繰り返されるこの事実を、こんなに緊張して待ち望むのは生まれて初めてのことだった。
ほんの少し面映いような不思議な高揚感に包まれている自分がなんとなくおかしくて、つい口元が自然と緩んでしまうが、それを隠す必要はなかった。
だって今、僕の傍には、誰もいないのだから。
いや、一応一人、傍にいることはいるのだけれど、彼はくーくーと気持ちよさそうに寝息を立てながら眠ってしまっている。
最初にカミュにおめでとうって言いたいから、と枕を抱えたミロがひょっこりと宝瓶宮にやってきたのは、ほんの数時間前のこと。
もっともそれは口実で、要するに彼は、他の宮に泊まるという、日常を離れたささやかな冒険気分を味わいたかっただけなのだろう。
その証拠に、僕の誕生日を数分後に控えた今も、全く起きる気配がない。
人のベッドを厚かましくも占拠して、ミロは幸せそうに深い深い眠りの中に埋もれている。
だから、僕は一人で、誕生日が来るのを待っているのだ。
時計の針が、重なった。
今日は、僕の誕生日。
とくんと心臓がはねた。
不思議だ。
自分の誕生日だと思うだけで、この一分一秒という短いときでさえ、特別に愛しい大切な時間に変化する。
それが誕生日というものなのかもしれない。
初めて味わう感覚に、僕は少しくすぐったさを覚えながら、今まで目にしてきた他の人々の誕生日の光景を思い返してみた。
祝いの言葉のシャワーを浴びながら、きっと、みんな、この感覚を味わっていたのだろう。
誕生日おめでとう。
使い古された、でも自分にはかけてもらったことがない言葉を、僕は声に出して言ってみたくなった。
ちらりとミロを見ると、大声で叫んだって聞かれる心配はないほどぐっすりと眠りこけている。
ちょっと、不愉快。
そう思う自分に驚いた。
ひょっとしたら、ミロの口先ばかりの訪問理由を、僕は自分で思っている以上に喜んでいたのかもしれない。
そんな自分に苦笑いを浮かべつつ、僕は自分自身に祝辞を述べようと口を開きかけた。
そして、そのまま止まってしまった。
寝ているミロを、もう一度見る。
今、彼は何かしゃべった、ようだ。
僕はミロを起こさないように気をつけながら、彼の口元にそっと耳を寄せてみた。
もう一度、不明瞭な言葉が小さく聞こえた。
言葉の意味を理解した僕は耳を疑い、じっとミロの顔をみつめたが、やっぱり彼は眠ったままだ。
寝言か。
僕はくすりと笑いながら、彼が蹴飛ばした毛布を掛け直してやり、その横に潜り込んだ。
彼が眠りながらも訪問目的を達成してくれたので、僕はもう、自分で祝いの言葉を言う必要はなくなっていた。
ほんのりと太陽の匂いがするミロの髪に顔を埋めると、僕は静かに目を閉じた。
今日は何だかいい夢をみられる気がした。
欠伸をかみ殺しながら、僕は時計の文字盤とにらめっこを続けていた。
あと、少し。
あと少しで、日付が替わる。
明日が来るという、毎日毎日繰り返されるこの事実を、こんなに緊張して待ち望むのは生まれて初めてのことだった。
ほんの少し面映いような不思議な高揚感に包まれている自分がなんとなくおかしくて、つい口元が自然と緩んでしまうが、それを隠す必要はなかった。
だって今、僕の傍には、誰もいないのだから。
いや、一応一人、傍にいることはいるのだけれど、彼はくーくーと気持ちよさそうに寝息を立てながら眠ってしまっている。
最初にカミュにおめでとうって言いたいから、と枕を抱えたミロがひょっこりと宝瓶宮にやってきたのは、ほんの数時間前のこと。
もっともそれは口実で、要するに彼は、他の宮に泊まるという、日常を離れたささやかな冒険気分を味わいたかっただけなのだろう。
その証拠に、僕の誕生日を数分後に控えた今も、全く起きる気配がない。
人のベッドを厚かましくも占拠して、ミロは幸せそうに深い深い眠りの中に埋もれている。
だから、僕は一人で、誕生日が来るのを待っているのだ。
時計の針が、重なった。
今日は、僕の誕生日。
とくんと心臓がはねた。
不思議だ。
自分の誕生日だと思うだけで、この一分一秒という短いときでさえ、特別に愛しい大切な時間に変化する。
それが誕生日というものなのかもしれない。
初めて味わう感覚に、僕は少しくすぐったさを覚えながら、今まで目にしてきた他の人々の誕生日の光景を思い返してみた。
祝いの言葉のシャワーを浴びながら、きっと、みんな、この感覚を味わっていたのだろう。
誕生日おめでとう。
使い古された、でも自分にはかけてもらったことがない言葉を、僕は声に出して言ってみたくなった。
ちらりとミロを見ると、大声で叫んだって聞かれる心配はないほどぐっすりと眠りこけている。
ちょっと、不愉快。
そう思う自分に驚いた。
ひょっとしたら、ミロの口先ばかりの訪問理由を、僕は自分で思っている以上に喜んでいたのかもしれない。
そんな自分に苦笑いを浮かべつつ、僕は自分自身に祝辞を述べようと口を開きかけた。
そして、そのまま止まってしまった。
寝ているミロを、もう一度見る。
今、彼は何かしゃべった、ようだ。
僕はミロを起こさないように気をつけながら、彼の口元にそっと耳を寄せてみた。
もう一度、不明瞭な言葉が小さく聞こえた。
言葉の意味を理解した僕は耳を疑い、じっとミロの顔をみつめたが、やっぱり彼は眠ったままだ。
寝言か。
僕はくすりと笑いながら、彼が蹴飛ばした毛布を掛け直してやり、その横に潜り込んだ。
彼が眠りながらも訪問目的を達成してくれたので、僕はもう、自分で祝いの言葉を言う必要はなくなっていた。
ほんのりと太陽の匂いがするミロの髪に顔を埋めると、僕は静かに目を閉じた。
今日は何だかいい夢をみられる気がした。