無憂宮
DRIVE


 ハンドルを握った俺は何度目かのため息を吐いた。道に迷った。
 カーナビのデータは古いのか、今の俺たちは木々をなぎ倒しつつ山中を走っていることになっているし、助手席のカミュナビは方向音痴でもともと当てにならない。
 次第に陽も落ち辺りが暗くなってきたのが、焦りに拍車をかける。
 「そんなにいらついた顔をするな」
 「別にいらついてない」
 役立たずな自分を自覚してか、少し気遣わしげなカミュの声がした。
 それに応える俺の口調は、自分でも驚くほど不機嫌だった。
 久々の運転、知らない土地、迫り来る夜。
 予想外に俺の受けているダメージは大きいのかもしれない。
 「疲労回復に糖分でも補給しとけ。たしか飴が……」
 言いさして鞄を手探りでひっかきまわしていたカミュは、思い出したように口許に手を添えた。
 さっき勧められた飴を、俺は断っていた。
 その飴はそのままカミュの口の中に放り込まれたのだが、確かその時、最後の飴だと言っていたはずだ。
 カミュも疲れてる。原因は俺が迷った結果の長距離ドライブ。
 自己嫌悪が、ますます俺を苛み始めた。
 「ミロ、ハンドル放すなよ」
 「あ?」
 視界が一瞬紅く染まった。
 横から顔を突き出したカミュの、突然のキス。
 舌と共に甘味が俺の口に押し込まれてきた。
 口移しで飴をくれたのだと理解したのは、カミュが離れたあとだった。
 「じゃ、運転がんばれ」
 何事も無かったように、カミュは真正面を向いてうそぶいた。
 「……なあ、このまま迷ってたら、今度は何くれるわけ?」
 「氷かな」
 「……がんばりまーす」
 このまま迷っているのもいいかもしれない、と思ったことは黙っておこう。

CONTENTS