園遊会
「……美味そうだな」
突然背後からかけられた声に、カミュは振り返った。
厚く葉を茂らせた木の陰からするりと姿を現したのは、にこやかな笑みを浮かべた豪奢な金髪の男だった。
確か、隣人が連れてきた友人の一人のはずだ。
名を、ミロといったか。
カミュは手にしたケーキのトレーに目をやると微笑んだ。
今日のケーキは、自分でも食べるのがもったいないと思うほど上手に焼けた自慢の一品だ。
「ああ、良かったら、あちらで一緒に食べないか」
少し離れて、テーブルを囲み談笑する人々の姿がみえる。
和やかな園遊会も終盤に近づきつつあり、このケーキはその仕上げとして皆に振舞うつもりだった。
「いや、ここで食べたいんだけど」
「皿もフォークもないのに?」
冗談かと思ったが、どうやら彼は本気だったらしい。
つかつかと近づいてきたかと思うと、止める間もなく一切れつまみ、口の中に放り込む。
指についたクリームをぺろりと舐めとる野卑な仕草に、カミュは思わず眉を顰めた。
「甘過ぎるな」
「……それはすまない」
予想外に低い評価に、カミュは表情を取り繕うことも忘れ、不愉快げに声を尖らせた。
「口直しにコーヒーでも飲んだらどうだ」
「そうだな」
カミュは軽く会釈をすると、いい加減この失礼な出席者を放って皆と合流しようと踵を返した。
と、その肩がぐいと掴まれ引き戻される。
振り返ると、にやりと形容する以外に言葉が見当たらないほど嫌な笑顔と出くわした。
「毒を持って毒を制するって、知ってる?」
「それが、何か?」
ケーキに毒が入っていたとでも言いたいのだろうか。
あまりに礼儀知らずの客をじろりと睨みつけてやったが、ミロは気にした風もなく嘯いた。
「……それ以上の甘さだったら、この口の中の甘ったるさを消せるかな」
「……は?」
言葉の意味を理解するより早く、視界がぐらりと歪んだ。
思わず取り落としそうになったトレーは、バランスを崩す前にミロの手に移っていたらしい。
最悪の事態を避けられほっとしたカミュは、ようやく先程から味覚が刺激されていることに気付いた。
……確かに、少し甘過ぎる。
それが重ねられた唇と腔内に差し入れられた舌のせいだとカミュが理解するには、もうしばらくの時間を要した。
「……美味そうだな」
突然背後からかけられた声に、カミュは振り返った。
厚く葉を茂らせた木の陰からするりと姿を現したのは、にこやかな笑みを浮かべた豪奢な金髪の男だった。
確か、隣人が連れてきた友人の一人のはずだ。
名を、ミロといったか。
カミュは手にしたケーキのトレーに目をやると微笑んだ。
今日のケーキは、自分でも食べるのがもったいないと思うほど上手に焼けた自慢の一品だ。
「ああ、良かったら、あちらで一緒に食べないか」
少し離れて、テーブルを囲み談笑する人々の姿がみえる。
和やかな園遊会も終盤に近づきつつあり、このケーキはその仕上げとして皆に振舞うつもりだった。
「いや、ここで食べたいんだけど」
「皿もフォークもないのに?」
冗談かと思ったが、どうやら彼は本気だったらしい。
つかつかと近づいてきたかと思うと、止める間もなく一切れつまみ、口の中に放り込む。
指についたクリームをぺろりと舐めとる野卑な仕草に、カミュは思わず眉を顰めた。
「甘過ぎるな」
「……それはすまない」
予想外に低い評価に、カミュは表情を取り繕うことも忘れ、不愉快げに声を尖らせた。
「口直しにコーヒーでも飲んだらどうだ」
「そうだな」
カミュは軽く会釈をすると、いい加減この失礼な出席者を放って皆と合流しようと踵を返した。
と、その肩がぐいと掴まれ引き戻される。
振り返ると、にやりと形容する以外に言葉が見当たらないほど嫌な笑顔と出くわした。
「毒を持って毒を制するって、知ってる?」
「それが、何か?」
ケーキに毒が入っていたとでも言いたいのだろうか。
あまりに礼儀知らずの客をじろりと睨みつけてやったが、ミロは気にした風もなく嘯いた。
「……それ以上の甘さだったら、この口の中の甘ったるさを消せるかな」
「……は?」
言葉の意味を理解するより早く、視界がぐらりと歪んだ。
思わず取り落としそうになったトレーは、バランスを崩す前にミロの手に移っていたらしい。
最悪の事態を避けられほっとしたカミュは、ようやく先程から味覚が刺激されていることに気付いた。
……確かに、少し甘過ぎる。
それが重ねられた唇と腔内に差し入れられた舌のせいだとカミュが理解するには、もうしばらくの時間を要した。