午睡
暑さには強いはずの俺も、さすがにこの数日の熱波には閉口させられていた。
「うだるような」とか「溶けそうな」とか、ありとあらゆる暑さに冠する形容を集めても足りないほどの熱気にさらされ続けていると、ついつい叶わない願いを抱いてしまうから、余計に辛いのかもしれない。
こんなとき、カミュがいてくれりゃ涼しいんだけどな。
そう思っても当然ながらあいつが帰ってくるわけでもなく、俺はどんどん無気力自堕落になっていく。
こうして長椅子でぐでぐでと転がっている俺を呆れたのか哀れんだのか、アイオリアが苦笑しながら差し入れてくれたフラッペは、すでにほとんど砂糖水と化していた。
ほんの少し口をつけてみたものの完食には至らなかったのは、カミュの氷とは大違いだったからだ。
あいつが作った氷なら、ここまであっさりと融けたりしない。
舌の上で融けるにしてももうちょっと根性をみせるし、そもそも氷自体の味が違う。
カミュの氷は、頭の芯が痺れるように冷たくて、でも、どういうわけだかほのかに甘いのだ。
まるでその作り手自身のようなあんな極上の氷を食べ慣れてしまっていたから、他の氷菓では何か物足りない。
俺をこんなに贅沢にしたのは、カミュだ。
だから、何もかも全てカミュが悪い。
「……なんとかしてくれよ……」
あっつい、と、何度目かわからない溜息混じりの呟きを落とすと、俺は眠りの世界に逃げ込もうと瞳を閉じた。
目が覚めると、心なしか幾らか涼しくなっていた。
日が傾いたせいだろうか。
一体何時間眠っていたのだろうと一抹の後悔を覚えつつ、俺は気だるい身体をゆっくりと起こした。
「……ようやく起きたか」
突然かけられた声に、眠気は一瞬で醒めた。
声のした方を見ると、所在投げに椅子に身を沈めた仏頂面のカミュがいた。
ああ、と、俺は小さく息を吐きつつ答えた。
「来てたなら、起こしてくれればよかったのに」
「あまりに心地よさげに眠っていたのでな」
そう言って立ち上がったカミュは、今度は俺のいる長椅子の端に腰を下ろした。
「久しぶりだな」
「ああ」
「今日はどうした、突然……」
「青い空が、何故だか無性に懐かしくなってな」
性急に俺の言葉を遮るとは、カミュらしくもない。
わずかばかり目を見開くと、視界の端でカミュの手がすっと持ち上がるのが見えた。
相変わらず綺麗に整えられた指先が、どんどん俺の方に近づいてくる。
俺の頬にそっと手を添えたカミュは、じっと瞳を覗き込んできた。
「金色に輝く太陽の光も、久々に浴びてみたくなった」
今度は空いた方の手で、カミュは俺の髪を一房すくい取った。
「……あと、ついでに、おまえに会いたくもなった」
頬の上を、つっと指が滑る感覚が走った。
その行き着く先は、唇だった。
囁きめいた呟きと共にゆっくりと唇の輪郭を撫でる指先が、妖しいまでに俺をうずかせる。
「……いつもそう思ってくれればいいのにな」
口元をわずかに歪めた俺は、気紛れな来訪者を抱き寄せるとそのひんやりとした唇にキスを落とした。
唇に貼りついて離れないむず痒さにも似た刺激をお返しにカミュにも味わわせてやりたかったのだが、どういうわけだか漂う艶めかしい感覚は、相手に移るどころかますますその強さを増すばかりだった。
再び目覚めたとき、カミュの姿はどこにもなかった。
夢、だったのだろうか。
あまりの暑さにやられ、とうとう願望が幻影をみせるまでになったのだろうか。
いや、違う。
カミュを求めて部屋を見渡した俺は、かるく目を見張った。
テーブルの上のフラッペが溶けていない。
涼しげな硝子の容器の中にあるのは色のついた水だったはずなのに、いつのまにか氷の塊になっていた。
やっぱり、来てたんだな。
俺は、ふっと息を吐いた。
「……コレ食ったら、墓参り行ってやるかな」
小さく笑った俺は、赤い爪を立ててその氷を荒く砕くと、一欠片口に放り込んだ。
懐かしい、カミュの氷の味がした。
暑さには強いはずの俺も、さすがにこの数日の熱波には閉口させられていた。
「うだるような」とか「溶けそうな」とか、ありとあらゆる暑さに冠する形容を集めても足りないほどの熱気にさらされ続けていると、ついつい叶わない願いを抱いてしまうから、余計に辛いのかもしれない。
こんなとき、カミュがいてくれりゃ涼しいんだけどな。
そう思っても当然ながらあいつが帰ってくるわけでもなく、俺はどんどん無気力自堕落になっていく。
こうして長椅子でぐでぐでと転がっている俺を呆れたのか哀れんだのか、アイオリアが苦笑しながら差し入れてくれたフラッペは、すでにほとんど砂糖水と化していた。
ほんの少し口をつけてみたものの完食には至らなかったのは、カミュの氷とは大違いだったからだ。
あいつが作った氷なら、ここまであっさりと融けたりしない。
舌の上で融けるにしてももうちょっと根性をみせるし、そもそも氷自体の味が違う。
カミュの氷は、頭の芯が痺れるように冷たくて、でも、どういうわけだかほのかに甘いのだ。
まるでその作り手自身のようなあんな極上の氷を食べ慣れてしまっていたから、他の氷菓では何か物足りない。
俺をこんなに贅沢にしたのは、カミュだ。
だから、何もかも全てカミュが悪い。
「……なんとかしてくれよ……」
あっつい、と、何度目かわからない溜息混じりの呟きを落とすと、俺は眠りの世界に逃げ込もうと瞳を閉じた。
目が覚めると、心なしか幾らか涼しくなっていた。
日が傾いたせいだろうか。
一体何時間眠っていたのだろうと一抹の後悔を覚えつつ、俺は気だるい身体をゆっくりと起こした。
「……ようやく起きたか」
突然かけられた声に、眠気は一瞬で醒めた。
声のした方を見ると、所在投げに椅子に身を沈めた仏頂面のカミュがいた。
ああ、と、俺は小さく息を吐きつつ答えた。
「来てたなら、起こしてくれればよかったのに」
「あまりに心地よさげに眠っていたのでな」
そう言って立ち上がったカミュは、今度は俺のいる長椅子の端に腰を下ろした。
「久しぶりだな」
「ああ」
「今日はどうした、突然……」
「青い空が、何故だか無性に懐かしくなってな」
性急に俺の言葉を遮るとは、カミュらしくもない。
わずかばかり目を見開くと、視界の端でカミュの手がすっと持ち上がるのが見えた。
相変わらず綺麗に整えられた指先が、どんどん俺の方に近づいてくる。
俺の頬にそっと手を添えたカミュは、じっと瞳を覗き込んできた。
「金色に輝く太陽の光も、久々に浴びてみたくなった」
今度は空いた方の手で、カミュは俺の髪を一房すくい取った。
「……あと、ついでに、おまえに会いたくもなった」
頬の上を、つっと指が滑る感覚が走った。
その行き着く先は、唇だった。
囁きめいた呟きと共にゆっくりと唇の輪郭を撫でる指先が、妖しいまでに俺をうずかせる。
「……いつもそう思ってくれればいいのにな」
口元をわずかに歪めた俺は、気紛れな来訪者を抱き寄せるとそのひんやりとした唇にキスを落とした。
唇に貼りついて離れないむず痒さにも似た刺激をお返しにカミュにも味わわせてやりたかったのだが、どういうわけだか漂う艶めかしい感覚は、相手に移るどころかますますその強さを増すばかりだった。
再び目覚めたとき、カミュの姿はどこにもなかった。
夢、だったのだろうか。
あまりの暑さにやられ、とうとう願望が幻影をみせるまでになったのだろうか。
いや、違う。
カミュを求めて部屋を見渡した俺は、かるく目を見張った。
テーブルの上のフラッペが溶けていない。
涼しげな硝子の容器の中にあるのは色のついた水だったはずなのに、いつのまにか氷の塊になっていた。
やっぱり、来てたんだな。
俺は、ふっと息を吐いた。
「……コレ食ったら、墓参り行ってやるかな」
小さく笑った俺は、赤い爪を立ててその氷を荒く砕くと、一欠片口に放り込んだ。
懐かしい、カミュの氷の味がした。