炬燵
これが日本の正月のあるべき姿だ、とミロが宝瓶宮に持ち込んだのは炬燵だった。
ご丁寧に畳まで持参したミロに最初は呆れていたカミュも、その中々の居心地の良さに目を細めていた。
天板の上には、籠盛のみかん。
一体どこで吹き込まれてきたのか判らないが、ミロの行動力は相変わらず侮れなかった。
わざわざ日本まで買いに行ったというおせち料理のぎっしり詰まった重箱を渡されたときには、結構本気で感心してしまったくらいだ。
「どう、どう? 今年の正月、結構くつろげる?」
ミロはお褒めの言葉を賜りたいと言わんばかりに、満面の笑顔を向けてきた。
カミュはその期待に応えるべく、手を伸ばしてその頭を撫でてやった。
新年早々ぐらい、喧嘩はよそう。
「まあまあ、かな。まったりしすぎて、ちょっと物足りないのが難点だ」
「贅沢なこと言う奴だなー」
あからさまに顔をしかめるミロに、カミュはくすりと笑った。
「だって、料理をしようと思っても、おせち料理があるお陰でその必要はないし、掃除をしようと思っても、福が逃げるとかで止められるし」
ミロは大げさなため息をついた。
「あのな、それが正月なの。普段働きすぎてる人が、何にもしないでゆっくり休むのが」
「そう言って、本も読ませてもらえない……」
カミュは恨みがましい視線を投げた。
もともと貧乏性の気があるカミュは、ただ無為に時間を過ごすのが苦痛なのだ。
そうして休むことが贅沢だとわかっていても、生来の気質はそうそう変えられない。
不満げに口を尖らせたカミュは、伸びをするように両手を天井に向かって突き上げると、そのまま後ろに倒れこんだ。
畳の感触は結構気に入っていた。
草を編んだ堅いマットがこれほど心地いいものだとは思わなかった。
愛しげにその表面に手を滑らせつつも、悪態を吐くのは止まらない。
ミロに対してだけは、カミュは雄弁になる。
もっとも、その内容は決して甘いものでは無かったが。
「足が温かいから眠くなるし、することないし。やっぱり早く正月終わらないかな」
「悲しいこと言うなよー。折角二人で過ごしてるのに……」
天板に突っ伏したミロがうめく。が、やがてそのうめき声が含み笑いに変わった。
「何だ、気持ち悪い」
「ふふふ、何だったら、すること作ってさしあげようか」
怪訝そうに見上げるカミュに、ミロは口の端を持ち上げた。
炬燵の中でぶつかる足が、明らかに偶然ではない動きになっていく。
意味ありげな視線を送ってくるミロに、カミュはため息をついた。
ま、正月だからな。
カミュは半ば諦めたように瞳を閉じた。
これが日本の正月のあるべき姿だ、とミロが宝瓶宮に持ち込んだのは炬燵だった。
ご丁寧に畳まで持参したミロに最初は呆れていたカミュも、その中々の居心地の良さに目を細めていた。
天板の上には、籠盛のみかん。
一体どこで吹き込まれてきたのか判らないが、ミロの行動力は相変わらず侮れなかった。
わざわざ日本まで買いに行ったというおせち料理のぎっしり詰まった重箱を渡されたときには、結構本気で感心してしまったくらいだ。
「どう、どう? 今年の正月、結構くつろげる?」
ミロはお褒めの言葉を賜りたいと言わんばかりに、満面の笑顔を向けてきた。
カミュはその期待に応えるべく、手を伸ばしてその頭を撫でてやった。
新年早々ぐらい、喧嘩はよそう。
「まあまあ、かな。まったりしすぎて、ちょっと物足りないのが難点だ」
「贅沢なこと言う奴だなー」
あからさまに顔をしかめるミロに、カミュはくすりと笑った。
「だって、料理をしようと思っても、おせち料理があるお陰でその必要はないし、掃除をしようと思っても、福が逃げるとかで止められるし」
ミロは大げさなため息をついた。
「あのな、それが正月なの。普段働きすぎてる人が、何にもしないでゆっくり休むのが」
「そう言って、本も読ませてもらえない……」
カミュは恨みがましい視線を投げた。
もともと貧乏性の気があるカミュは、ただ無為に時間を過ごすのが苦痛なのだ。
そうして休むことが贅沢だとわかっていても、生来の気質はそうそう変えられない。
不満げに口を尖らせたカミュは、伸びをするように両手を天井に向かって突き上げると、そのまま後ろに倒れこんだ。
畳の感触は結構気に入っていた。
草を編んだ堅いマットがこれほど心地いいものだとは思わなかった。
愛しげにその表面に手を滑らせつつも、悪態を吐くのは止まらない。
ミロに対してだけは、カミュは雄弁になる。
もっとも、その内容は決して甘いものでは無かったが。
「足が温かいから眠くなるし、することないし。やっぱり早く正月終わらないかな」
「悲しいこと言うなよー。折角二人で過ごしてるのに……」
天板に突っ伏したミロがうめく。が、やがてそのうめき声が含み笑いに変わった。
「何だ、気持ち悪い」
「ふふふ、何だったら、すること作ってさしあげようか」
怪訝そうに見上げるカミュに、ミロは口の端を持ち上げた。
炬燵の中でぶつかる足が、明らかに偶然ではない動きになっていく。
意味ありげな視線を送ってくるミロに、カミュはため息をついた。
ま、正月だからな。
カミュは半ば諦めたように瞳を閉じた。