無憂宮
 されるがままだった。
 舌を激しく絡めながら、唇ごときつく吸い上げられて、抵抗のしようもない。
 舌の裏や、頬の内側までも執拗に舐め回されて、その度にぞくっと背筋が震える。
 逃げ惑う舌を引き出され、サガの口内へ導かれると、そこは火傷しそうなくらいに熱くて、その熱に、僅かな意識までもが吸い取られていくようだった。
 二人の唾液が混じりあい、喉元に流れ込んでいく。
 それでも飲み込めなかった唾液は、二人の重なった唇の僅かな隙間から漏れていき、顎を濡らしながら、滴り落ちていった。
 「・・・んっ・・・はぁ・・・」
 息が出来ないくらい苦しいのに、
 どうしても唇を離すことが出来ない。
 まるで、魔法にかけられたみたいに、身動き一つ取れないまま、サガの唇を受け入れている。
 かろうじて、背中に回した腕にだけ力が入るけれど、全身の力は既に失われていた。
 こんな口付けは、サガらしくない。
 いつもの甘く蕩けるような優しいサガの口付けとは、全く違う。
 薄れていく意識の中でぼんやりとそんな事を考えていると、唇が離れた。
 ゆっくりと瞼を上げると、すぐに目に飛び込んできたのは、サガの唇だった。
 さっきまで見惚れていたサガの薄い唇が唾液に濡れて、艶かしく光っている。
 それが、あんな身体中痺れるくらい激しいキスをしていた唇だと思った瞬間、恥ずかしくなって顔を背けた。
 こんな事で動揺して、顔を赤らめている姿なんて見られたくない。
 子供扱いされる事が、嫌で嫌でたまらないくせにあんな口づけ一つで、まるで子猫のように身体を震わせている様は、子供以外の何者でもない。
 やはり敵う相手ではないと、つくづく思い知らされ、肩を竦めた。
 「・・・カミュは素直じゃないな。」
 サガの指がそっと頬に触れる。
 俯いていた顔を上げると、サガはじっとこちらを見据えたまま、静かに微笑んでいた。
 「・・・何が・・・ですか・・・?」
 もうどんな態度をとっても、きっとサガの目には滑稽に映るだろう。
 それでも、最後の抵抗とばかりに、きつく睨み返すと、サガは苦笑した。
 「君が本当の事を言わないから、ちょっとからかってやりたくなったんだよ。」
 見つめられただけで、身体の奥の燻っている熱が、逃げ場を求めて、全身をじわじわと疼かせていく。
 こそばいようなこの感覚に、自分でもどうしていいのか分らなくなって、すがる様にサガを見つめ返した。
 それを感じ取ったのか、サガはくいと顎を掴むと、顔を近づけてきた。
 「・・・からかうだけじゃすまされなくなってきたな。」
 そう囁いて、再び唇が落ちてきた。
 けれど、その口付けは、いつもと同じように優しかった。


 「・・・あっ・・・はぁっ・・・」
 胸の先端を舌で撫でられると、カミュの背が一瞬ビクッと仰け反った。
 与えられる刺激に、頭の上から足の爪の先まで、電流みたいに快感が走り、カミュは身体を大きく捩らせる。
 耳朶にも、首筋にも、鎖骨の窪みにも、肩にも、脇腹にも、サガの唇が辿った跡が、そこだけ熱を帯びて、腫れ上がっていくようだった。
 柔らかい手のひらが身体中を彷徨うと、甘い疼きがじわじわと込み上げてきて、意識しなくても腰が微かに揺れる。
 その手が下肢を捕らえると、待ちわびていたように蜜が溢れ出してくる。
 ゆっくりと絡みつくサガの長い指を濡らしながら、焦らすような愛撫を受けて、手の中の自身がだんだんと張り詰めていった。
 それでも、サガの手は執拗にカミュを追いつめていく。
 蜜に濡れたままの指が、秘部へと辿りつき、指先を押し付けるように撫でられていると、少しずつ解れた後孔は蕩けながらサガの指を奥深くまで吸い寄せていった。
 意識は朦朧としているのに、身体は敏感すぎるくらいにはっきりと快楽を感じ取っている。
 きつく瞑った目からは涙が零れ落ち、開いた唇からは荒い息だけが吐き出される。
 ゆっくりとサガが中へ入ってくると、カミュは大きく声を上げた。
 「やぁっ・・・」
 全てを受け入れると、奥からじわじわと何かが流れ出ていくような気がした。


 少しずつ早くなる抽挿に、甘い刺激が身体中を突き抜ける。
 カミュは耐え切れずに思わずサガの背中を引き寄せて、しがみついた。
 触れ合う肌が二人の体温をあげて、肌が汗ばむ。
 切なげな声を上げながら、求められるまま、懸命に応えているけれど、それでもまだ何かが足りない気がする。
 もっともっと近くにサガを感じたい、もっと全身でサガを感じたいと、誘うように唇を少し開けて、声に出さずに名前を呼ぶと、応えるようにサガの唇が重なった。
 吸い付くようなキス。
 灼けつくようなキス。
 互いに身体を揺らしながら、唇も身体も激しく貪りあう。
 背中へ回した腕に力を入れて、身体ごとぎゅっとサガを締め付けると、カミュは痙攣したように腿を震わせた。
 押し寄せる快感とキスの感触が交じり合って、一気に高みへと導かれる。
 「ああっ・・・・・・」
 身体をしならせ、昇りつめたカミュの身体から、欲望がはじけ、それと同時にサガもカミュの奥深くに熱を吐き出した。
 全てを解放すると、すっと意識が消えて、頭の中が真っ白になっていく・・・
 しがみ付いていた背中から力が抜けた手が離れ、ベッドの上へどさっと落ちた。
 「・・・カミュ」
 上から見下ろすサガの顔はどこか心配そうだった。
 「大丈夫か?」
 優しく髪を撫でながら、そう聞くサガに、カミュは少し微笑みながら頷いた。


 「・・・そういえば」
 サガの腕に抱かれ、余りの心地よさにうとうとまどろみかけていたカミュは、はっと目を覚ました。
 「床に花が散らばっていたけれど・・・私に持って来てくれたのか?」
 「・・・あ」
 カサブランカの花を摘んで、持ってきたことをすっかり忘れていた。
 もうどれくらい時間が経っているのだろう・・・
 せっかくサガが喜んでくれると思って摘んできたのに・・・もうしおれてしまっているかも知れない。
 カミュは慌てて身体を起こした。
 「ごめんなさい、すぐに水を・・・」
 といいかけた所で、サガの手が、動きを遮った。
 「・・・大丈夫だよ。あとで水につければ、きっと」
 少し強引に肩を引き寄せられて、倒れ込むようにまたサガの胸に戻る。
 首にしっかりと腕を回されてしまっては、大人しく言う事を聞くしかない。
 それでも、嫌ではなかった。
 こんな時でないと、サガを独り占めなんて出来ないのだから。
 息遣いが聞こえそうな程、顔を寄せ合って、肌を伝わる体温を暖かさを黙って感じていると、こうやって傍にいる事に安心したのか、サガはゆっくりと目を閉じた。
 しばらくすると、さっきと同じように、静かな寝息が聞こえてくる。
 ここ何日か、遅くまで仕事に追われていたから、きっと疲れているんだろう。
 起こさないようにと、注意しながら、その寝顔を見入る。
 ・・・何度見ても本当にサガは綺麗だと、つくづく思う。
 閉じられた瞳に微かに震える長い睫毛。
 鋭さを失った瞳は、穏やかな表情を湛えている。
 カミュはそっと手を伸ばし、サガの頬へ指を滑らせた。
 陶器のような滑らかな肌、そして整った薄い唇・・・
 その唇に指を当てると、隙間から漏れた息が微かに掛かる。
 撫でるように指を這わしていると、薄い唇の持ち主とキスがしやすい、と言っていたサガの言葉を思い出した。
 サガは自分をからかってあんな事を言ったのだろうが、でも、今になって考えみれば、サガの言う事もあながち間違ってなかったと思う。
 あんなに甘いキスができるのは、唇の形だって関係あるのかもしれない。
 そう考えていると、もう一度、確かめたくなった。
 どれだけ、キスがしやすい唇なのかを・・・
 (・・・今度は起きませんように・・・)
 心でそう呟いて、カミュはそっと唇を寄せた。




きっかけは艶文が書けないとぼやいていた私の日記です(笑)。
レスしてくださったもとっちさんに、リレー小説を…と
ずうずうしくもお誘いしたところ、快く引き受けてくださいましたv
…もとっちさんの背後にシャカ並みの後光が見えました!
しかも「カプは何でもOK」という素敵なお言葉まで…v
サガカミュにさせていただいたのは、完璧に私の趣味です(笑)。

前半の私は書き逃げですが、メインは後半っ!
どんな素敵な展開になるのかと、わくわく状態でしたv
期待に違わぬ、いや、期待以上のこの描写…!
私が好き勝手に書いた前半をあますところ無く活用してくださり
さらに華麗に展開していくもとっちさんにひたすら感服!

改めまして、もとっちさん、ありがとうございました!
とても楽しかったですv








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