2005 Christmas
街中がクリスマス一色に染まっていた。
道行く人々が最も優しい表情になれる時期。
至る所に仰々しく飾られたツリーやどこからともなく流れてくるクリスマスキャロルの調べは、幼いミロを矢も楯もたまらず浮き立たせるに十分なものだった。
「みてみて、あそこにおっきなサンタさんがいる!」
目にするもの全てが楽しいらしく、四方八方にきょときょとと忙しく視線をさまよわせるミロは、何かに興味を奪われてはいきなりそちらに駆け寄ろうとする。
そんなミロの手綱を締めるべく、つないだ手にぎゅっと力を込めて彼を押しとどめるのは、一緒にいるカミュの役目だった。
はしゃぎだすミロを落ち着かせるのももう何度目になるかわからなくなりつつある上、さらにはその必要に駆られる間隔でさえ次第に狭くなってきているような気がする。
そうしてミロが浮かれれば浮かれるほど、カミュは一段と気を引き締めねばならない。
本当は、ミロと一緒に騒いでみたいという思いに少し駆られたりもするのだけれど。
それでも与えられた任務を果たそうと生真面目な顔をして歩くカミュに、傍らのサガが微笑ましげな視線を注ぐ。
カミュの内心の葛藤もお見通しの温かい眼差しが無性に照れくさくて、カミュは殊更しかつめらしい表情を作ってサガを見上げた。
「聖域でもクリスマスを祝うだなんて、思いもしませんでした」
「どうして?」
「だってクリスマスって、宗教行事でしょう?」
女神を信奉する自分たちが、異教の救世主の生誕を祝うのは奇妙だ。
理屈に合わない事実に、カミュは自分なりに納得のいく理由を探そうとしたのだが上手くいかず、何となしにすっきりしないままだった。
「……そうだね」
小さな理屈屋の自尊心を慮ってか、疑問をぶつけられたサガはしばらく思案する素振りをみせた。
「まあ、私たちが女神を戴くのは、宗教とは少し違うからね。人々が救世主として崇める御仁の祝い事なら、それを私たちが一緒に祝ってもいいんじゃないかな」
それに、楽しいことは多いに越したことはない。
そう言って悪戯っぽく片目を閉じてみせたサガに、カミュは賛同の意を表して笑顔を浮かべつつ、また彼方へ飛び出していこうとするミロをぐいと引き戻した。
クリスマスの買い物に行くけれど、一緒に来るかい?
サガにそう訊かれたときには、まさかこんな遠く離れた街までのお出かけだなどとは、カミュもミロも思っていなかった。
だから一層お祭り気分の街頭の雰囲気に二人は妙に浮き足だってしまうのだけれど、おそらくはそれもサガの誘いの意図に含まれていたのだ。
幸せそうな人々の姿を直に目にすることで、世界中でたくさんの人が平和の内に暮らしたいと願っているということを、聖闘士であるカミュたちに再認識させる意味もあったかもしれない。
しかし、より大きな理由は、社会と隔離された別世界で暮らす彼らに、ただの普通の子供として陽気なクリスマスの雰囲気を味わわせたかったということだろう。
さもなければ、足手まといになる幼児を二人も連れて買い物に行こうなどと、いくら面倒見のよいサガでも思うまい。
そうしたサガの意図を明敏に察してしまったがゆえに、カミュはせめて迷惑をかけまいと、ともすれば駆け出しそうになるミロの手をしっかり握りしめていたのだ。
その、つもりだった。
「あ、すっごくキレイなツリー!」
つい気を抜いてしまった瞬間を狙い済ましたように、ミロの手がするりとカミュの手を抜け出した。
しまったと思う間もなく、ミロの姿はみるみる人込みの中に消えていく。
カミュはちらりと前を行くサガの背を見上げた。
ミロを捕まえて、すぐに追いかければいい。
数分後、この混雑を侮っていた自分の浅はかさを非常に後悔することになる決断を下し、カミュはミロの後を追った。
「……サガ、どこに行っちゃったんだろうね」
「さあ……」
吹き抜けに設置された巨大ツリーの根元で、二人の子供が途方に暮れていた。
ツリーを目当てにカミュはミロと合流することはできたのだが、肝心の引率者の方が人の波にのまれて姿を消してしまったのだ。
初めのうちこそ小宇宙で呼びかければすぐにみつかると楽観していたのだが、この雑踏の中では彼ら程度の念波では妨害されてしまうらしく、いくらサガに呼びかけても返事はない。
次第に幼い二人の表情に陰が差しつつあった。
「迷子になりましたって、誰か大人に助けてもらおうか?」
「……恥ずかしいからイヤ」
「あ、じゃあ、迷子になったのは、僕たちじゃなくてサガってことにして」
「……怒られるよ」
二人は顔を見合わせ、同時に溜息をついた。
「……どうしよう……」
聖域以外ほとんど知らない彼らにとっては、異国の地で保護者とはぐれてしまったようなものだ。
きっと今頃、サガもさぞ心配していることだろう。
今にも瞳から大粒の涙をこぼしそうなカミュに、元凶となった自覚があるらしく唇を噛みしめたミロは、助けを求めるように頭上を仰いだ。
煌く電飾で盛装したツリーが、まるで厚い屋根のように二人の上に枝を張り出していた。
数階分のフロアを貫く高さを誇るこのツリーに登ったら、人海の中にサガの姿をみつけられるかもしれない、と思ったのだろう。
登るに格好の枝振りを求めてツリーの周囲を一周していたミロは、突然歓喜の声を上げた。
「カミュ、サガがいた!」
ミロに引っ張られるようにして、カミュは行き交う人々の合間を縫うように階段を駆け上がった。
どこもかしこも皆何の悩みもないように陽気にはしゃぎ騒ぐ中、一際子供たちの歓声で賑わう一角があった。
ミロは迷いもなく、その繁華な集団を目指して突進していく。
「サガ!」
人垣の内に入り込む隙を窺いつつ、ミロがよく通る大きな声で呼びかける。
輪の中心にいた人物が、ぎくりと脅えたように振り返った。
「……あ」
カミュは瞳を見開いた。
そこにいたのは、サガだった。
しかし、今しがたまでカミュたちと一緒だったはずなのに、彼はいつのまにやら服を着替えてしまったらしい。
子供たちに取り囲まれたサガは、今日、街中でよく目にした服装に身を包んでいた。
ふわふわの白い縁取りが施された、赤い帽子に、赤い服。
温かそうなサンタクロースの衣装を纏ったサガは、明らかに困惑した面持ちで突っ立っていた。
しばらくしてようやく我に返った様子のサガは、いつもの悠然とした笑みを浮かべ二人の方へ近づいてきた。
「すごいや、サガ! サンタさんなの?」
歓声を上げるミロに、わずかに身をかがめたサガは穏やかに微笑みかけた。
「そうだよ。少し手伝いを頼まれてしまってね。で、君たちはどうしたんだい、こんな遠くまで」
きょとんと瞳を瞬かせたミロは、不思議そうに小首をかしげた。
「サガが僕たちを連れて来てくれたんじゃない」
「……あ、ああ、そう……だったね」
不審気なミロをいなすようにその頭をぽんと撫でると、サガは離れたところで子供たちにお菓子を配っていたもう一人のサンタクロースに歩み寄っていった。
二言三言彼に話しかけると、再びミロたちの元へ戻ってくる。
サガは被っていたサンタの帽子を脱ぐと、ミロの頭にぐいと目深に被せた。
「遠くまで来て疲れただろう。休憩しようか」
先程からずっとひたと見上げてくるカミュに、サガはちらりと目を配ったが、すぐに視線を外すとミロの背を押して歩き出す。
これじゃ前が見えないよ、と、両手をぶんぶんと振り回して楽しげに叫ぶミロの後を、カミュは少し遅れてついていった。
サガが二人を連れて行ったのは、同じ建物の中ではあるものの、喧騒から少し離れたところに位置するこじんまりとしたカフェだった。
「何でも好きなもの頼んでいいぞ……いや、いいよ」
サガはこほんと咳払いをしつつ、二人の前にメニューを広げてみせてくれた。
外食、という滅多にない機会だけに、ミロもカミュも興味津々と瞳を輝かせてメニューを覗き込む。
「……何でも、いいんですか」
カミュが確認するように上目遣いでサガを見上げた。
「ああ、いいよ」
「じゃ、コーヒーにします」
「何だ、それだけでいいのか」
サガは拍子抜けしたように笑うと、ついでミロを見遣った。
「そっちは何に……。ん、どうした?」
蒼い瞳と口を呆けたようにぽかんと開いたミロに、サガは不審気な声をかける。
「……いいの?」
「何が?」
「コーヒー。僕たちはまだ子供だからダメって、サガ、いつも言うのに」
ぐうと喉の奥で何か詰まらせたような不明瞭な音が聞こえた。
目の前でわずかに顔を引きつらせたサガが音源だったのだが、ミロは音の正体がわからないらしく、きょろきょろと訝しげに周囲を見渡していた。
「……クリスマスだから今日は特別、なんですよね」
自分が彼を窮地に追いやった張本人であることなど棚に上げ、返答に詰まるサガに救いの手を差し伸べるように、カミュがしれっと言葉をつなぐ。
「でも、やっぱり、僕は紅茶にします」
「……ああ、好きにしなさい」
かすかに疲労を滲ませた声を落とすと、サガはここにいるようにと二人に言い残して席を離れた。
何を注文しようかと迷いに迷いひたすらメニューに没頭しているミロを、カミュは横目でさっと見やった。
ついで視線を転じ、何かしらダメージを受けたのか、足取りが少しふらついているような感さえするサガの後ろ姿を黙って見送った。
街中がクリスマス一色に染まっていた。
道行く人々が最も優しい表情になれる時期。
至る所に仰々しく飾られたツリーやどこからともなく流れてくるクリスマスキャロルの調べは、幼いミロを矢も楯もたまらず浮き立たせるに十分なものだった。
「みてみて、あそこにおっきなサンタさんがいる!」
目にするもの全てが楽しいらしく、四方八方にきょときょとと忙しく視線をさまよわせるミロは、何かに興味を奪われてはいきなりそちらに駆け寄ろうとする。
そんなミロの手綱を締めるべく、つないだ手にぎゅっと力を込めて彼を押しとどめるのは、一緒にいるカミュの役目だった。
はしゃぎだすミロを落ち着かせるのももう何度目になるかわからなくなりつつある上、さらにはその必要に駆られる間隔でさえ次第に狭くなってきているような気がする。
そうしてミロが浮かれれば浮かれるほど、カミュは一段と気を引き締めねばならない。
本当は、ミロと一緒に騒いでみたいという思いに少し駆られたりもするのだけれど。
それでも与えられた任務を果たそうと生真面目な顔をして歩くカミュに、傍らのサガが微笑ましげな視線を注ぐ。
カミュの内心の葛藤もお見通しの温かい眼差しが無性に照れくさくて、カミュは殊更しかつめらしい表情を作ってサガを見上げた。
「聖域でもクリスマスを祝うだなんて、思いもしませんでした」
「どうして?」
「だってクリスマスって、宗教行事でしょう?」
女神を信奉する自分たちが、異教の救世主の生誕を祝うのは奇妙だ。
理屈に合わない事実に、カミュは自分なりに納得のいく理由を探そうとしたのだが上手くいかず、何となしにすっきりしないままだった。
「……そうだね」
小さな理屈屋の自尊心を慮ってか、疑問をぶつけられたサガはしばらく思案する素振りをみせた。
「まあ、私たちが女神を戴くのは、宗教とは少し違うからね。人々が救世主として崇める御仁の祝い事なら、それを私たちが一緒に祝ってもいいんじゃないかな」
それに、楽しいことは多いに越したことはない。
そう言って悪戯っぽく片目を閉じてみせたサガに、カミュは賛同の意を表して笑顔を浮かべつつ、また彼方へ飛び出していこうとするミロをぐいと引き戻した。
クリスマスの買い物に行くけれど、一緒に来るかい?
サガにそう訊かれたときには、まさかこんな遠く離れた街までのお出かけだなどとは、カミュもミロも思っていなかった。
だから一層お祭り気分の街頭の雰囲気に二人は妙に浮き足だってしまうのだけれど、おそらくはそれもサガの誘いの意図に含まれていたのだ。
幸せそうな人々の姿を直に目にすることで、世界中でたくさんの人が平和の内に暮らしたいと願っているということを、聖闘士であるカミュたちに再認識させる意味もあったかもしれない。
しかし、より大きな理由は、社会と隔離された別世界で暮らす彼らに、ただの普通の子供として陽気なクリスマスの雰囲気を味わわせたかったということだろう。
さもなければ、足手まといになる幼児を二人も連れて買い物に行こうなどと、いくら面倒見のよいサガでも思うまい。
そうしたサガの意図を明敏に察してしまったがゆえに、カミュはせめて迷惑をかけまいと、ともすれば駆け出しそうになるミロの手をしっかり握りしめていたのだ。
その、つもりだった。
「あ、すっごくキレイなツリー!」
つい気を抜いてしまった瞬間を狙い済ましたように、ミロの手がするりとカミュの手を抜け出した。
しまったと思う間もなく、ミロの姿はみるみる人込みの中に消えていく。
カミュはちらりと前を行くサガの背を見上げた。
ミロを捕まえて、すぐに追いかければいい。
数分後、この混雑を侮っていた自分の浅はかさを非常に後悔することになる決断を下し、カミュはミロの後を追った。
「……サガ、どこに行っちゃったんだろうね」
「さあ……」
吹き抜けに設置された巨大ツリーの根元で、二人の子供が途方に暮れていた。
ツリーを目当てにカミュはミロと合流することはできたのだが、肝心の引率者の方が人の波にのまれて姿を消してしまったのだ。
初めのうちこそ小宇宙で呼びかければすぐにみつかると楽観していたのだが、この雑踏の中では彼ら程度の念波では妨害されてしまうらしく、いくらサガに呼びかけても返事はない。
次第に幼い二人の表情に陰が差しつつあった。
「迷子になりましたって、誰か大人に助けてもらおうか?」
「……恥ずかしいからイヤ」
「あ、じゃあ、迷子になったのは、僕たちじゃなくてサガってことにして」
「……怒られるよ」
二人は顔を見合わせ、同時に溜息をついた。
「……どうしよう……」
聖域以外ほとんど知らない彼らにとっては、異国の地で保護者とはぐれてしまったようなものだ。
きっと今頃、サガもさぞ心配していることだろう。
今にも瞳から大粒の涙をこぼしそうなカミュに、元凶となった自覚があるらしく唇を噛みしめたミロは、助けを求めるように頭上を仰いだ。
煌く電飾で盛装したツリーが、まるで厚い屋根のように二人の上に枝を張り出していた。
数階分のフロアを貫く高さを誇るこのツリーに登ったら、人海の中にサガの姿をみつけられるかもしれない、と思ったのだろう。
登るに格好の枝振りを求めてツリーの周囲を一周していたミロは、突然歓喜の声を上げた。
「カミュ、サガがいた!」
ミロに引っ張られるようにして、カミュは行き交う人々の合間を縫うように階段を駆け上がった。
どこもかしこも皆何の悩みもないように陽気にはしゃぎ騒ぐ中、一際子供たちの歓声で賑わう一角があった。
ミロは迷いもなく、その繁華な集団を目指して突進していく。
「サガ!」
人垣の内に入り込む隙を窺いつつ、ミロがよく通る大きな声で呼びかける。
輪の中心にいた人物が、ぎくりと脅えたように振り返った。
「……あ」
カミュは瞳を見開いた。
そこにいたのは、サガだった。
しかし、今しがたまでカミュたちと一緒だったはずなのに、彼はいつのまにやら服を着替えてしまったらしい。
子供たちに取り囲まれたサガは、今日、街中でよく目にした服装に身を包んでいた。
ふわふわの白い縁取りが施された、赤い帽子に、赤い服。
温かそうなサンタクロースの衣装を纏ったサガは、明らかに困惑した面持ちで突っ立っていた。
しばらくしてようやく我に返った様子のサガは、いつもの悠然とした笑みを浮かべ二人の方へ近づいてきた。
「すごいや、サガ! サンタさんなの?」
歓声を上げるミロに、わずかに身をかがめたサガは穏やかに微笑みかけた。
「そうだよ。少し手伝いを頼まれてしまってね。で、君たちはどうしたんだい、こんな遠くまで」
きょとんと瞳を瞬かせたミロは、不思議そうに小首をかしげた。
「サガが僕たちを連れて来てくれたんじゃない」
「……あ、ああ、そう……だったね」
不審気なミロをいなすようにその頭をぽんと撫でると、サガは離れたところで子供たちにお菓子を配っていたもう一人のサンタクロースに歩み寄っていった。
二言三言彼に話しかけると、再びミロたちの元へ戻ってくる。
サガは被っていたサンタの帽子を脱ぐと、ミロの頭にぐいと目深に被せた。
「遠くまで来て疲れただろう。休憩しようか」
先程からずっとひたと見上げてくるカミュに、サガはちらりと目を配ったが、すぐに視線を外すとミロの背を押して歩き出す。
これじゃ前が見えないよ、と、両手をぶんぶんと振り回して楽しげに叫ぶミロの後を、カミュは少し遅れてついていった。
サガが二人を連れて行ったのは、同じ建物の中ではあるものの、喧騒から少し離れたところに位置するこじんまりとしたカフェだった。
「何でも好きなもの頼んでいいぞ……いや、いいよ」
サガはこほんと咳払いをしつつ、二人の前にメニューを広げてみせてくれた。
外食、という滅多にない機会だけに、ミロもカミュも興味津々と瞳を輝かせてメニューを覗き込む。
「……何でも、いいんですか」
カミュが確認するように上目遣いでサガを見上げた。
「ああ、いいよ」
「じゃ、コーヒーにします」
「何だ、それだけでいいのか」
サガは拍子抜けしたように笑うと、ついでミロを見遣った。
「そっちは何に……。ん、どうした?」
蒼い瞳と口を呆けたようにぽかんと開いたミロに、サガは不審気な声をかける。
「……いいの?」
「何が?」
「コーヒー。僕たちはまだ子供だからダメって、サガ、いつも言うのに」
ぐうと喉の奥で何か詰まらせたような不明瞭な音が聞こえた。
目の前でわずかに顔を引きつらせたサガが音源だったのだが、ミロは音の正体がわからないらしく、きょろきょろと訝しげに周囲を見渡していた。
「……クリスマスだから今日は特別、なんですよね」
自分が彼を窮地に追いやった張本人であることなど棚に上げ、返答に詰まるサガに救いの手を差し伸べるように、カミュがしれっと言葉をつなぐ。
「でも、やっぱり、僕は紅茶にします」
「……ああ、好きにしなさい」
かすかに疲労を滲ませた声を落とすと、サガはここにいるようにと二人に言い残して席を離れた。
何を注文しようかと迷いに迷いひたすらメニューに没頭しているミロを、カミュは横目でさっと見やった。
ついで視線を転じ、何かしらダメージを受けたのか、足取りが少しふらついているような感さえするサガの後ろ姿を黙って見送った。